立山〜双六岳〜新穂高温泉
1996年4月27日〜4月30日
メンバー: 秋田・中尾

ヨーロッパの山スキーのツアーコースで段突に有名なものにモンブランからマッターホルンまでをつなぐ「オートルート(高い道 と言う意味)」と呼ばれるコースがある。

氷河こそないが、モンブランを立山に槍が岳をマッターホルンに見立てたロングコースは、山スキーヤーの間でジャパン・オートルートと呼ばれ、そのスケール、難度、標高、どれをとっても日本を代表するツアーコースの条件を備えていると言われている。

山岳スキーツアーに要求されるあらゆる技術や経験、体力、そして判断力が試されるこのビッグルートに今回私達は挑戦した。

4月27日 快晴、風やや強し
連休の初日で人出はややまし−という気もするが、それでも電鉄立山の駅で1時間程のタイムロスがあり、ようやく室堂に到着したのは9時近くになっていた。

ガイドブックで紹介されているのは、初日五色ヶ原まで4.5時間、2日目太郎平小屋11時間、3日目双六小屋9時間、4日目上高地10時間となっているのだが、今日少しでも先へコマをすすめたいと気がはやる。

できるだけ軽い荷物(8Kgぐらい)でスピーディに行動することが成功のポイントと聞かされていたが初日のビバーク用具、食料等を含むと13Kg近くにしかできなかったザックを担ぎ、一ノ越を目指して歩く。

一ノ越の小屋付近にはスキーヤーが10数人いたが、私たちのいく御山谷の方へ足をむける人はいない。衆人の見る中、うまくもないスキーのワザを披露するのはイヤな緊張感がつきまとう。それでも雪質はなかなか快適であっという間に2500mのトラバース地点に到着した。ここから先行パーティのあともしっかりある雪面を、鬼岳と竜王岳の鞍部までのぼり返す。

よしよし、この調子だーと心の中で思っていた矢先、鬼岳のピークから人が滑っておりてくる。
コースガイドの通りにのぼってきたが、この先(ガイドによると鬼岳の西面をトラバースする、となっている)はガレ場でいけないとのこと。スタート早々のアクシデントに混乱するが、気をとりなおして夏道のルートにスキーをむける。結局コースガイドの方がマチガイと判明、小一時間はおくれてしまった。

獅子岳の稜線はスキーをかつぎ歩く。そこからザラ峠までは標高差630mの一枚バーンで、斜度は40度近い。時間的に雪がくさっているのでなんとかターンしながら下りることができたが、クラストしてたら・・・と思うとオソロシイ。(実際よくケガをする人があるとのこと)

再びシールをつけて五色ヶ原へのぼり返す。連休中はオープンしているという五色ヶ原山荘を通り越し、先へと向かう私たちの行く手を突如ガスがさえぎり出した。あれよあれよという間にホワイトアウト状態である。3月の吾妻連峰で3時間も徘徊したニガイ経験から、今動くのはムダと判断し、しばらくガスの動くのを待ってみる。

が、10分、20分くらいでは動く気配もなく、時刻も3時をまわったので、この先へすすむことをあきらめて小屋に引き返すことにする。しかしさっき通ったばかりの小屋の位置がもうわからない。結局10分程動いた距離を引き返すのに30分もかかり、ようやく到着することができた。

小屋はメチャウマのみそ汁とごはん付で一人5500円、ガンガンに暖房のきいた居間とフトン使い放題の個室。そして何より小屋のおじさんとそのお友だちのあたたかさが心地良い楽しい一泊だった。
[タイム] 室堂(9:30) 一ノ越(10:20) トラバース終了(10:50) 獅子ヶ岳(13:05) ザラ峠(13:20) 五色ヶ原(14:25) 五色ヶ原山荘(15:30)

4月28日 朝ガスのち快晴
天気予報に反してまた一面のガス。小屋のおじさんのアドバイスで今日太郎平小屋を目指す2人パーティと単独行の男性群と一緒に出発する。幸い歩き出して30分もしないうちにガスも晴れ、それぞれパーティ毎のペースで歩けるようになった。

鳶山を夏道に沿ってのぼるパーティ、五色ヶ原よりほとんど高度をかえずにトラバースする単独行の人の中間にあたり、東南面をまくように私たちは進んだ。時間的には平行トラバースが一番速かったが、後で聞くとかなりヤバかったとのこと。急がば回れということか。

越中沢岳を越してスゴノ頭まではほとんどスキーは使えず、アイゼン、ピッケルのお世話になる。ずっと先頭を進んでいた私と中尾さんの位置がスルリとここで逆転する。

何歩か行く毎にズボッとはまる雪に足をとられ、ヨロけながらもひたすら歩き、スゴ乗越小屋に11時到着。小屋は屋根の上部が顔をのぞかせているのみで使用は不可であった。 山荘を出てすでに5時間半、しかし行程はまだ倍以上ある。幸いお天気だけはこれ以上望むべくもない程のピーカンでほとんど無風状態である。とにかく前へ前へ進むこと、一歩ゆけばそれだけ太郎平の小屋が一歩近づく。そう思いながらひたすら歩いた。北薬師岳の下りで一ヶ所スキーをはずして夏道づたいに下るところがあったが、それ以外はずっとシールで登行できたことはラッキーだった。

ようやく薬師岳のピークにたどりついた時はうれしさよりもこれ以上今日は登らなくていいんだという安堵感だけであった。追いついた単独行の人に写真を撮ってもらい、すぐまた先を急ぐ。雪がどんどんしまってくる時間でのんびりしているゆとりは全くない。

2900mの避難小屋まではシールをつけたまま進む。この付近、ガスるとルートファインディングの難しいところだが、ヨレてる私たちにお天道様が見方してくれているかのように、今日の終点の太郎平小屋もはっきりと見え、ルートは間違いようがない。

4時をすぎた斜面の雪は重く、滑りを楽しむというよりは苦行のようであった。さすがのサイボーグ中尾さんのエネルギーも底をついたのか、薬師峠まで下ってきた彼女は消耗しすぎて逆に何ものどを通らない状態にまでなっていた。

小屋までのほんの少しの登り返しが疲れた身にはこたえる。ようやく到着したのはスタートから12時間20分後であった。小屋にはRSSAの坂野さんがお手伝いとして来ていて、倒れるように小屋に入った私たちに熱いお茶などをもってきて世話をしてくれた。結局朝同時にスタートした2人パーティと、すぐそのあとにきていたテントの2人パーティの姿はとうとう見えなかった。
[タイム] 五色ヶ原山荘(5:30) スゴ乗越小屋(11:00) 薬師岳(15:30) 2900m滑り出し(16:00) 薬師峠(17:00) 太郎平小屋(17:50)  1泊夕食付 1人7000円(個室)

4月29日 快晴
今日もうれしい程の快晴、無風状態である。今回の一番の長場をなんとかクリアーできたこと、そしてこの先は中間の黒部五郎の避難小屋が使えるので少し気は楽である。

北ノ俣の登り途中で休んでいるところを昨日薬師峠で幕営していた3人組に追い抜かれる。3人共登山靴をはいているところをみると、かなりのワザ師のようである。しかし北ノ俣岳から中俣乗越までの大斜滑降でシールをつけたまま滑っている彼らを再び抜き返す。「この斜滑降は日本の中で最も気分のよい斜滑降であると断言しよう」とコースガイドにかいてあったのに知らなかったようだ。もったいな〜。楽しい滑りのあとはまた黒部五郎まで長い登りである。クトーをつけていても北面カリカリの一枚バーンには少々緊張させられる。

肩まで登り切ると黒部の大カールが目の中にとびこんでくる。雪屁越しにこわごわ下をのぞきこんで、はてさてどうやってここを降りようかと思案する。虎の巻のコースガイドによるとピークを越し主稜線通しに黒部乗越に下るコースと、滑りに自信があるなら肩の雪屁の隙間から直接40度程あるカールの上部に滑りこむ方法と、もう1つは肩から東北東へのびる尾根を200mほど歩き、少し傾斜の落ちたカールの側面を滑る方法が述べられていて、私たちは迷うことなく3番目のコースを選択したが、それでもトレースのない急斜面の最初の第一歩の緊張感は何ともいえないものがある。ワザ師の3人組は肩のところでコンロを出して大休止しているし、先行していた単独行の人(太郎の小屋でもう1名いた)2名は気が付けば雪屁の間を滑りおりて(1名は落ちて)いた。

ここでも天は私たちに味方してくれて、これ以上ないかと思えるような快適な雪質で未熟なスキーヤーを受け入れてくれた。
カールの底までコースは選び放題であった。そこからは右岸をまたまた大斜滑降で下り、南に回り込むと目の前に黒部五郎の小屋が見える。小屋の回りには双六から来た人たちや朝小一時間程速く小屋を出ていた単独行の人たちが休憩していてにぎやかであった。私たちもちょっとゆとりの気分でお茶を沸かし大休止をとる。五郎の大カール、谷間に見える笠ヶ岳の雄姿、三角屋根の小さな小屋、異様な日焼けの顔、顔、太陽の回りには大きな日輪・・・何もかもが浮き世離れした別世界のようであった。

三俣蓮華岳へはまた長い登りだ。再びシールをつけ、斜面をジグザグにのぼりながら高度をかせぐ。と、突然槍ヶ岳の穂先が目の前にとびこんできた。初日、2日目にははるか先に見えた山が、手をのばせば届きそうな距離となっている。しかし、槍まで縦走する!というスタートの意気込みから状況は大分変ってきていた。

経験豊富な坂野さんも、途中から抜きつ抜かれつしてきた回りのメンバーも口々に西鎌はシールが使えないからつまらない、とか弓折岳からの滑りがオモシロイ等と私たちにアドバイスをくれる。私自身、オートルート走破の魅力も捨てがたいが、槍沢を滑ったあとの横尾から上高地までの道程のエグさを想い出すと、まだ滑ったことのない左俣谷へと心が動く。もう底をつきかけてきた体力を双六岳のピークへ向けてふりしぼり、双六谷を2500m高度まで滑って再び小屋をめざしてのぼり返し、明日はゆっくり下山することに決めた。

テント縦走の愛知の3人組のパーティリーダーがイチオシした双六谷は今回のルートの中で最高の雪質と私好みの斜度で、登りの苦しさも何もかも吹き飛んでいくようだった。心配したのぼり返しも思った程ではなく、4時20分、無事双六小屋へ到着。双六のピークをあきらめトラバースルートを来た単独行者2名と再び出会う。

小屋に入るとここをベースにしているスキーヤーやら、今朝中俣乗越からスタートしたパーティ(途中で抜かした)や単独行の人たちにさかんに私達の強さを強調されてしまった。
[タイム] 太郎平小屋(5:40) 北ノ俣岳(シールはずす) (7:30) 黒部五郎岳(11:00) 黒部五郎小舎(11:30) 双六岳(15:40) 双六谷登り返し(16:05) 双六小屋(16:20)

4月30日 曇り
昨日の日輪現象から今日はくずれるゾ、みんな思っていたのに案外視界はスッキリしている。改めて西鎌尾根を目の前にするとちょっと残念な気も沸いてくるが、下山後の社会復帰の為に体力を残さねばーと思い弓折岳へと足をむける。双六岳を少し下ったところからクトーをつけて稜線をすすむ。今回はよくクトーのお世話になった。疲れもあってか、弓折岳まで結構時間がかかってしまった。しかし、ここから先は下るのみである。滑り出しは地形がデコボコしていて小きざみなターンをしなければならないが、途中からは快適なバーンとなる。

高度も2000mを下ると雪質はどんどん悪くなり力まかせのターンが続く。今年は雪が多いとかで、デブリの上で苦労もさせられたが、わさび小屋の先、ほとんど北電小屋の近くまでスキーを使えたのはラッキーだったようである。林道を滑りながら太郎平から相前後して縦走してきた単独行のお兄さんに「ターボついてるみたいやね」と思わず言わせてしまった私って・・・・・!!!!!?????

スキーをザックにつけて林道を歩くこと小一時間、長い長いツアーはついに終了した。あとは目の前にある無料の公衆浴場にとびこむのみだ。

めずらしく小屋を使っての合宿はいろいろな人との出会いの場があってそれなりに楽しいものであった。それにしても改めてわかったこと −私たちってやっぱり強かった!?
[タイム] 双六小屋(6:50) 弓折岳(8:20) 林道(歩き) (10:30) 新穂高温泉(11:30)

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