他パーティーの救助活動で終わった夏合宿

2005年8月13日〜14日
岩田・秋田・谷岡・柳瀬・川辺・照代・松村

黄蓮谷右俣の奥千丈滝。是非とも一見したい滝であり沢であったが今回の夏合宿では間近にその渓相を触れることは残念ながらできなかった。夏合宿は当初二泊三日の予定だったが、崩落事故に巻き込まれた先行パーティーの救助活動のために二日目遡行中止し下山となってしまった。男性陣は直接救助活動に関わったため遡行中止の代わりに得るモノはあっただろうが、テントで待機しそのまま下山となった女性陣にとっては不完全燃焼の山行だったに違いない。次回リベンジで是非奥千丈滝を越えてみたい・・ですよね、秋田さん。

2005.08.13(土)曇り〜雨〜晴れ
川辺、谷岡、松村、照代の4名は後発として村上さんの見送りを受けて8月12日の夜に松村号にて大阪駅を出発した。先発は一日早く現地入りしており集合場所の駒ヶ岳神社駐車場に松村号は日付が変わってすぐに到着することができ、ちょっと気付けにビールを呑んで就寝する。
翌朝、薄曇りの中朝食を取って会長号を駐車場にデポし松村号にて尾白川林道の日向ヶ山登山口ゲートまで進む。ここから尾白川沿いの林道を一時間強歩いて林道終点より急下降して尾白川本流に入渓する。

最初の釜とナメ滝
ナメ滝の前で

入渓地点下流部では別パーティーが竿を出していたが釣れるのだろうか。天候はそれほど悪くはなさそうで、さすがに本流であるためか渓相も花崗岩帯の沢床で広くて明るい。遡行開始してすぐに大釜を持ったナメ滝が出てきて各人思い思いにヘツリながら大釜をかわす。岩質はツルツルに磨かれておりフリクションが効き辛い。

巻道より
花崗岩の大岩壁

その後出てくるナメや滝を慎重に足を運びながら順調に遡行する。どの滝も直登困難なスラブ状のナメで、大きくて深そうなエメラルドグリーンの釜をたたえていた。一部巻道にいやらしい箇所もあったが、やはりというか泊りの沢の場合はやむを得ない場合を除いて大胆に泳ぎにはしることができず、ヘツリや巻きで済まそうとする自分は完全に守りに入ってる山行スタイルの持ち主だ。

休憩
ツルツルのへつり

巻道より
花崗岩の大岩壁

黄蓮谷の出合では他の支流と間違え、そのまま尾白川本流を遡行しそうになったが地図と周りの地形を照らし合わせてなんとか黄蓮谷へ入ることができた。尾白川本流を分けるとフリクションが効く岩質に変化し、黄色っぽい岩肌になった。

出合より黄蓮谷
出合より本谷

順調に距離を稼ぐことができていたためか時間に余裕が感じられ、千丈滝に到着すると滝をバックに撮影大会が始まった。昨年遡行した仙台YMCAのメンバーの情報によるとこの千丈滝はさほど困難なく登れるそうだ。

黄蓮谷最初の滝
この釜の色!

滝身の左からフリーで取り付くと一段目はスンナリ登れ、後続をお助けロープで引っ張る。二段目以上は照代の登るのは嫌だという意見であっさり左の巻き道を使う。途中一人で上部のナメ床へ戻り遠景を望む開放的な渓相を楽しむ。

千丈滝をバックに
坊主ノ滝

この千丈滝の感じから明日の奥千丈滝に期待がかかる。滝を過ぎてすぐに左からルンゼ状の支流が入り、上部に大岩らしきものが確認できた。白稜ノ岩小屋だ。冬場はここから入渓してアイスクライミングを楽しむルートとなっている。さらに進むとすぐに坊主ノ滝に到達した。藪の一部にいくつかのスペースが有り、時刻はかなり早いがこの上部で7人の就寝スペースが確保できるか不安があるため今夜の寝床をここに決定しテント設営する。

 

増水する流れの上で焚火
増水の坊主ノ滝

早速、薪をかき集め焚火を起こし、食事準備をしているとタイミング良く?雨が降り出した。夕立らしく本降りとなるが焚火を消さないように薪をくべていると坊主ノ滝が異常に増水していることに気付き、あっという間に焚火の下にも浸水。それでも火は消えず、水流の上の焚火という異様な光景となった。テントにも間際まで水流が押し寄せて来たため、土木工事で水路を構築して水を逃がす。
ふと坊主ノ滝上部に人影が見えてその人がテン場まで下降してきた。「この雨の中、これから下山ですか?」と尋ねると「すぐ上で崩落事故に遭って一人動けないでツェルトで待機している。」といった内容のことをその高齢者に見える人が深呼吸するように喋った。どうやらこの方は救助要請をするためこのまま沢沿いに下山するつもりらしい。崩落に遭ったのは正午頃らしくもう4時間以上経過している。会長判断でこのK氏と川辺さんが五合目から黒戸尾根を降り救助要請に向かい、会長と私で上部の崩落現場に残されたH氏を確認しに行くこととなった。女性陣はこのままこの場所で待機、名前や連絡方法などを確認している間に携帯が繋がらないので無線機で緊急コールを行なう。入管応答は無いが聞いている人がいる可能性があるので繰り返し現場の状況とヘリの救助要請をする。結局無線には応答は無く、川辺さんに無線機と会長の携帯を預けて雨が上がって急速に水が引いていく上流目指して会長と坊主ノ滝を右のルンゼから巻きにかかる。女性陣は料理を食べながらホイッスルを鳴らして手を振ってくれた。
ルンゼの途中から左の尾根に取り付きそのまま尾根を上がるが坊主ノ滝を越えても岩壁がバンド状に伸びていて降りることのできそうな場所が見当たらない。やむなく懸垂下降することにして斜めに下降しそこから岩場を越えると会長が対岸の10m程の滝の下に黄色のツェルトでビバークしているH氏らしき人を発見した。大声で呼びかけると返答があり一応安心して水流を渡って駆け寄る。
頬に擦り傷があるH氏は気丈にも元気そうでツェルトの中でエアマットの上に雨具を着込んで横になっていた。持ってきたテルモスを差し上げ2人で早速キズの状態を確認、応急手当にかかった。一時的な応急手当でバンドエイドやテーピングで止血されていたが全て取り除きキズ口を見る。体の右側を打ち付けているらしく右肘、右膝、右足首が打撲で腫れ上がっていたがキズとして一番大きなものは右肘の裂傷だった。血はほとんど止まりかけており、肘の肉が削げて骨が見えていた。しかし、骨折はしていないようでイソジンで消毒した後、圧迫止血の処理を行なう。見るからに痛そうであったが本人は平気そうにふるまっていた。キズ口の手当てと同時にボルタレン(痛み止め)を飲んでもらって、会長のフリースを着せ防寒態勢を整えて再び横になってもらう。
ありがたいことにツェルトのすぐ下流に流木が堆積しておりこれで焚火を起こし、コンロに火を付け夕食を準備する。不安な孤独感から開放されたのか、ボルタレンが効いてきて楽になったためか、はたまた焚火で体が温まってきたためかH氏は冗談交じりで話をしてきた。どうやらすぐ側の滝を登っている最中に乗っていた岩盤が崩れ一緒に落ちて来たようで、本人は落ちる直前直後の記憶が無いらしい。パートナーのK氏に「よく生きていたな。」と言われるほどの激しい滑落だったようでむしろこの程度のキズで済んだことが奇跡のようなものらしい。
落ち着いてから自分の携帯を見ると「圏外」から開放されていたため登録していた山梨県警地域課へ会長から事故報告と救助要請をしてもらう。所轄は長坂署らしく悪戯電話を警戒して折り返し電話をかけてきた。県警への救助要請は一足先に尾根で下山中の川辺さんから連絡されており翌朝7:00にヘリがこちらに向かうよう手配済みだそうである。一安心。
水流のすぐ横で傾斜した岩場上だが天候は急好し星空を望めた。今夜は雨は降ることはないと確信し、なんとか整地してツェルトから2、3人用テントに設置し直した。H氏から日本酒をいただき21時過ぎには就寝した。

コースタイム
8/13(土)駒ヶ岳神社駐車場(6:15)〜林道ゲート(6:35)〜林道〜尾白川入渓(8:30)〜鞍掛沢出合(9:15)〜黄蓮谷出合(11:45)〜白稜ノ岩小屋の支沢(13:30)〜坊主ノ滝下BP(13:45)〜救助へ出発(16:35)〜懸垂下降〜右股入口事故者と合流(17:30)

翌日事故現場でのビバークサイト
事故者をヘリでピックアップ

8月14日(日) 晴れ
翌朝5時に起床すると快晴で、絶好のアタック日和だったが悲しくも下山日となってしまった。H氏もすぐに起きてきて昨夜はよく眠れたらしいが、ボルタレンの効果が切れて少し痛みがあるようだ。すぐに病院まで送られるので薬を飲まないほうが良いということで我慢してもらった。彼は痛みのためか朝食を食べることができず我々だけ食事を済ませ、7時前には準備万端でヘリの到着を待った。幸いにもこの現場はヘリがホバリングできる谷幅があり、大きな岩棚が5mほど下流に水流中だがピックアップの適地として存在している。H氏には身に付けることができるヘルメットやハーネスなどの荷物はできるだけ付けてもらう。
7時を2分ほど過ぎた頃、ヘリの音が聞こえ始めた。すぐに谷底に張り付くようにヘリが現れ、坊主ノ滝下での女性陣のテン場付近でホバリングしていたので現場はこちらだということを黄色のツェルトを大きく振って知らせる。ヘリがこちらに向かい始めると同時に荷物を飛ばされないようにまとめ、ダウンウォッシュからの暴風態勢をとる。ヘリが真上でホバリングを始めると爆音とダウンウォッシュによる水しぶきで目を開けていられない。救助隊員の一人が下降してきてH氏に浮輪のような全身ハーネス?をすばやく装着させ、2人同時にウインチでピックアップして収納と同時に飛び去って行った。この間5分とかかっていない。ホバリングしているヘリ機体底部の認識番号は読み取れたが、逆光で県警か民間かの識別はできなかった。

ヘリへ
崩落のあった滝

会長と2人急に静かさが帰ってきた谷間で残された彼の荷物を前に暫らく脱力感で呆然とした。気を取り戻し、下山にかかる前に崩落事故のあった滝を観察することにした。取り付きから5mほど上部水流の左側岩盤が剥離した跡として見ることができた。ほとんど滝壷が無い滝の下にある砕けた真新しい岩盤の形状からみて間違いないだろう。しかし、よく見ると左の嫌らしそうな草付気味の岩盤より右側のほうが登り易く見えるのだがどうしてあえて左を登ったのだろうか?

崩落した岩盤
刃渡り

大きく裂けて使い物にならないH氏のザックはその場に放置してその他の荷物を自分達のザックに詰め込み皆の待機する坊主ノ滝下まで尾根通しで下降をはじめる。昨日はバンド状の岩壁に阻まれ懸垂下降をしたがもう少し尾根の上部まで登ると現場までの下降路があった。坊主ノ滝左岸のルンゼに降り立つと女性陣に向けてホイッスルを鳴らして戻って来たことを告げる。テン場に到着後、荷物を皆に分散して5合目から黒戸尾根に上がるべく白稜ノ岩小屋を目指して今年の夏合宿は終わった。白稜ノ岩小屋からは急登を上り、五合目避難小屋から長い下りを照代を先頭に駆け抜ける。
足が棒のようになりながら照代と先行下山後、昨夜23時に下山した川辺さんと合流して尾白川渓谷で水遊びを楽しむ家族連れをかき分け松村号の回収に向かう。病院からの連絡でH氏は全治7〜10日だそうだがそんなに軽症だったのだろうか? 二人に連絡を取ると、治療を終え千葉に向かっているとのこと。二人の装備を宅急便で発送し、我々の役目を終えたのだった。
その日は道の駅の温泉に浸かった後、某スキー場の広い駐車場にて打上げの宴会を開き、翌朝私と照代は皆と別れて松本経由で金沢へ向かった。

コースタイム
8/14(日)ヘリで事故者ピックアップ(7:05)〜出発(7:10)〜坊主ノ滝下BP(7:35〜8:35)〜白稜ノ岩小屋(9:45)〜五合目避難小屋(11:05)〜駒ヶ岳神社駐車場(13:50)


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